宴会がお開きになったのは、夜もふけた、つい先ほどのことだった。聞こえるのはもう波の音だけだ。
誰もが寝静まっていると思いきや、月明かりの中、村の小道を走る一つの影があった。その影は一軒の家の裏口の前で立ち止まった。夏のことなので戸は開けてある。その影は、しばらく中の様子を窺がっていたが、間もなくその裏口の闇へと消えた。
家の中は寝息の博物館だ。大きな鼾から、すやすやという可愛らしい寝息まで、あっちこっちから聞こえて来る。先ほどの影の主は、暗闇の中のそれらの一つに迷わず近寄ると、手に持っていた何かをその傍にそっと置いた。そして、月明かりが射し込む裏口へ戻ると、素早く外へ飛び出し砂丘を一気に駆け登って行った。
浜の波打ち際には、先ほどの三人の旅人に加えて男がもう一人、伝馬船を用意して待っていた。砂丘を駆け下りて来た先ほどの影の主は、船上の男に向かって息を切らせながら小声で言った。
「おとう、・・・待たせた。」
その影の主はウミヒコことハヤテであった。彼は軽い身のこなしでその船に飛び乗った。
男たちは皆ハヤテの父カヂの仲間だ。浜に下りていた二人が、船を押してすぐに本人たちもそれに飛び乗ると、かすかに櫓をきしませただけで、五人を乗せた伝馬船は滑るように沖へ出た。その先には、昼間は見かけなかった、大きな帆船の姿があった。
伝馬船が岸を離れてしばらくしてから、ハヤテは小声で父に尋ねた。
「なあなあ、おとう。先におかあとこの浜で会うたとき、何で連れて行ってくれんかったんじゃ?」
「ほう、それは不思議なこともあるもんじゃ。わし、おかあと一緒にこの浜に来た夢見て、月明かりの下にお前がおるの見付けたけん、お前がこの村におる思うて探しに来たんじゃ。」
カヂは些(いささ)か驚いたようにそう言った。ということは、きっと彼もハヤテと同じような夢を見たのだろう。親子や兄弟姉妹のような特に親しい者の間では、このような不思議なことが実際に起こることがある。