それから二三日経ったある日。ウミヒコがいつものように浜に腰を下ろして海を見ていると、誰かが彼の横に並んで腰を下ろした。誰かと思ってそちらを向いたウミヒコの目に大きく映ったのは、なんとシャガの小麦色に日焼けした美しい横顔であった。ウミヒコの心臓の鼓動は、飛び出しそうな勢いになった。
彼女は、しばらく流木の小枝で目の前の砂をつついていたが、間もなくサッとウミヒコの方を向いた。彼女の長い黒髪がかすかに彼の腕をかすめた。彼女はわざと眉間に皺を寄せ、訝しそうにしてウミヒコに尋ねた。
「あんた、なんでいつも海ばっかり見てるの?」
シャガが話しかけてくるのは初めてだった。しかもこんな近くで。風向きの加減によって、彼女の方から花のような甘い香りが潮の香りに混じって時折り流れて来る。
今の自分の顔は、はまなすの実のように赤くなっているに違いないのだろうとウミヒコは思った。
彼はなるべく正面から赤い夕日を受けるようにして、彼女にそれを気付かれないようにした。
さて、もしここで明瞭に返事をすれば、自分の言葉の訛りを彼女が気付くかもしれない。だから彼は、わざと彼女の顔を見ず海の方を向き、小声の早口で答えた。
「海が好きじゃけん。」
「えっ? なに?」
シャガはウミヒコの顔に耳を近付けて聞き返したので、彼は仕方なく依然として海の方を向いたまま、今度は大きな声ではっきりと言った。
「海が、好きじゃけん!」
突然彼女は立ち上がり、笑いながら走り去った。
「ハハハハ、ほんと。変な言葉だわ。」