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沙 の 夢  「はまなすの実」第一章-1

浜辺
 むかし、むかし、遠いむかし。北の海辺に小さな村があった。
 西向きの長い砂浜の中ほどにあるその十七軒の茅葺き屋根は、まるで夜明け前の梢に並ぶ小鳥たちのように、ひっそりと身を寄せ合っていた。
 この村と浜との間には一本の低く細長い砂丘がある。一方その反対側には、北の丘の向こうの町から南の丘はるか向うの町へと続く一本の細い街道があった。
 この街道を横切ると小さなお宮がある。そのお宮の背後には急な斜面の山があり、そこにはこの村の人が耕す段々畑があった。
 また、砂丘の北のはずれは墓地になっていた。墓標は大よそ三寸角ほどの先の尖った木製の柱で、新しいものは真っ直ぐに、古いものの多くは傾きながらも、皆海を見下ろすようにして立っていた。
 この村にやがて訪れる大きな出来事は、ある一つの事件から始まった。それはちょうど、浜茄子の実が赤く色付く頃・・・。
 この季節には毎年決まって南から嵐がやって来る。この年の夏もまた、例年通り嵐がやって来た。
 夜通し吹き荒れていた風は夜明けには収まり、夏の海はいつものような朝の静けさを取り戻していたが、浜には流木や海藻などの沢山の物が打ち上げられていた。
 流木は貴重な焚き木となる。それを拾いに浜に出た村人の何人かが、物に混じって人が一人打ち上げられているのを見付けた。年の頃十三、四と見受けられるその男の子は、大きな流木にしがみ付いたまま気を失っていたが、幸い目立った怪我はなかった。
 もし、この子が敵方の高貴な生まれの者なら、ここらの領主が住む北の町のお城に連れて行けば褒美が出ることを村人たちは知っている。しかし、真っ黒に日焼けした、どことなく精悍なその体からは、高貴な印象はあまり感じられなかった。村人は、自分たちと同じような漁師の子ではないかと思ったが、身に着けている物が何も無いので手掛かりがない。彼の意識が回復すれば、きっと身元を聞き出せるだろうと思い、村人は彼を介抱し、親が見付かるまでの間この村で面倒を見ることにした。
 男の子はすぐに意識を取り戻し、間も無く体調も回復したが、自分の名はもちろん、生まれた場所や父母の名を聞いても、「忘れてしもうた」と言うだけだった。きっと、ここに打ち上げられるまでの衝撃があまりにも大きくて、記憶を失ってしまったのだろう。
 誰となく「ウミヒコ」と呼んだのが始まりで、彼の名はウミヒコになった。

曇りの海
 それから十日が過ぎた。いつものように村の仕事の手伝いを終えたウミヒコは、浜辺に座って海を見ていた。

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